「応募が来ないから求人票の雇用条件を上げる」の落とし穴

「応募が来ないから求人票の雇用条件を上げる」の落とし穴

「応募が来ないなら、もっと条件を良くすればいいんじゃないか」と最初に考えてしまいますよね。

給与を上げる。休日を増やす。リモートOKにする。確かに、条件が良くなれば応募は増えるかもしれません。

しかし、私はそのやり方に安易には賛成できません。

ただ雇用条件を上げれば人手不足は解決する、という発想には落とし穴があるからです。

目次

求人票を作って気づいた「条件のジレンマ」

最近、あるサービス業の店舗の求人運用をサポートしています。

事業承継によって新オーナーになった代表とパートスタッフ1名で回しているお店で、そのオーナーと一緒に求人票を作りはじめたのですが、ここで想像以上に苦労しました。

何に一番苦労したかというと、求人票に載せる雇用条件のすり合わせです。

求人票を作るとき、まずは前オーナーがどんな求人を出していたのか、そして近隣の同業態やフランチャイズの別店舗がどんな条件で出しているかを調べました。

いわゆる「相場」の確認です。

ところが、その相場に合わせて求人票の内容(労働時間、給与)を設定しようとすると、新オーナーが当初予定していた雇用条件よりも引き上げなければいけなくなりました。

時給、交通費、シフトの柔軟性・・・、「求人票だけ相場に合わせて作り、入社後の実態は今のまま(求人票と違う)」というわけにはいきません。

かといって、相場を大きく下回る求人内容、雇用条件では求職者に注目してもらえません。

オーナーの方と「この部分はいくらまで出せるか」「雇用条件が法令に違反していないか」「経営的に無理をしすぎていないか」を一つひとつ確認しながら、何度も条件を調整しました。

求人票の文面を書くよりも、雇用条件のすり合わせの方が難しく重要です。

そして、この労力は避けられないものです。なぜなら、求人票と実態がズレたまま採用してしまったら必ずどこかで歪みができるからです。

「良い求人票」の意味を間違えてはいけない

「魅力的な求人票」と「条件を盛った求人票」は似て非なるもの。

「求人票を良くする」=「雇用条件を引き上げること」だと考えてしまいがちですが、この考え方には要注意です。

会社が無理をして出した条件で人を集めると、入社後にその無理のしわ寄せが必ずどこかに出ます。

約束した休日が取れない、想定していた昇給ペースが維持できない。

そうなれば、従業員の不満はたまりますし、会社や代表への不信感が募ります。

一方で、ありのままの条件を淡々と並べただけの求人票では魅力が伝わらないことも多いです。

そもそも求人の相場に届いていない雇用条件では、見向きもされない現実があります。

条件を盛れば入社後の雇用条件にひずみが出る。かといって、ありのままでは埋もれてしまう。

このジレンマに正面からぶつかるのが、中小企業の採用だと思います。

では、どうするか。

大事なのは「盛る」でも「手を抜く」でもなく、自社の身の丈に合った正直な魅力を見つけて、それをちゃんと言葉にすることです。

求人票は「約束」でできている

私が求人票で意識しているのは、求人票は「約束の集合体」だという点です。

給与、休日、仕事内容、勤務時間、勤務地、これらはすべて「この条件であなたを迎えます」という会社からの約束です。

入社する人はその約束を信じてやってきますので、守れない約束を書いてしまうと入社後の信頼関係が最初からつまずきます。

「求人票の内容に嘘はないか、本当に応募者が納得して入社できそうか、会社として提示した雇用条件を守れそうか。」

これらの観点から、ムリなく約束を守れるバランス調整が難しいです。

盛った求人がもたらす見えにくいコスト

雇用条件を盛った求人で入社した人が早期に辞めると、表に見える採用コストだけでなく、じわじわと効いてくるダメージがいくつもあります。

一番ダメージが大きいのは、教育コストが丸ごと消えることではないでしょうか。

入社してからの1〜3ヶ月、先輩社員がつきっきりで教えた時間は戻ってきませんし、採用→教育→離職→また採用というサイクルを回すたびに、代表や従業員の気力も削られていきます。

「また辞めた」「また募集するのか」という空気は、残っている社員のモチベーションを確実に下げます。

特に従業員が少ない会社ほど、一人の離職がチーム全体に与える影響は大きいです。

他に厄介なのが、会社の評判への影響です。

今の時代、退職した人が転職サイトの口コミに「求人の内容と実態が違った」と一言書くだけで、次の採用はさらに難しくなります。

盛った求人で一時的に応募を増やしても、長い目で見るとかえって遠回りになることが多いです。

「会社の本当の魅力は何か」から始める

では、条件を盛らずにどうやって人を集めるのか。

私がおすすめしたいのは、まず今いる社員に「うちの会社の1番の魅力ってなんだと思う?」と率直に聞いてみることです。

・「職場に嫌な人がいない、社長が話しやすい」

・「自分の意見、アイデアを聞いてもらえる」

・「子どもの行事で休みやすい、シフト調整がしやすい」

労働時間や給与以外の面で、実は他社にはない”選ばれる理由”があったりします。

それを求人票に反映させることが、無理をしない求人につながります。

地味に聞こえるかもしれませんが、「この会社で長く働きたい」と思ってくれる人を連れてくるのは、結局そういう求人票です。

こうした魅力は社内にいると当たり前になりすぎていて、意外と気づけていないことが多いですので、ぜひ率直に従業員にヒアリングしてみるところから始めてみてください。

この記事を書いた人

板谷 隆誠のアバター 板谷 隆誠 代表 社会保険労務士

岡山県倉敷市で『あなうみ社労士事務所』を運営しています。趣味はマラソンです。

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