自転車通勤の許可前に必ず保険証券を確認するべき理由

こんにちは、社労士の板谷です!今回は「自転車通勤の許可」がテーマです。
従業員が通勤中に自転車事故を起こした場合、法人が使用者責任を問われ、事故相手から賠償請求される可能性も考えられるため、通勤中の自転車事故に備えることは法人にとって大切です。
私はこれまで約400名以上の従業員の自転車保険の確認経験がありますが、「相手への賠償は補償されるけど、自身のケガへの補償がない契約状態だった」など、意外と確認するべきことが多いのが自転車保険です。
従業員の自転車保険未加入を避けるためにも、さっそく保険証券で必ず確認するべき4項目について見ていきましょう。
保険証券の確認項目

①保険対象者の氏名
- 従業員本人が補償対象者か。
②保険の有効期間
- 保険証券は有効期限内か。
③補償内容
- 数千万円~1億円程度の賠償が補償されるか。
④特約の種類
- 自転車通勤中の事故もカバーしているか。
特に②〜④はまんべんなく遭遇します。体感では30人に1人くらいは何かしらの不備があります。
特に確認が難しいのが、④特約の種類です。
自転車保険に加入しているなら確認は簡単なのですが、生命保険や自動車保険などの特約(個人賠償責任補償特約、日常生活賠償特約など)も自転車事故の補償に対応していることが多いのです。
対象の保険名をWeb検索すれば公式の保険パンフレットがヒットするので、「自転車事故も補償する旨が確認できる」文言は、一応その保険パンフレットを読んで確認しておくとベストです。
(補償内容を従業員自身が誤解されているケースも考えられるので、法人としても確認はするべきです。)
通勤中の自転車事故は会社のせい?
従業員が業務中や通勤中に事故を起こした場合、民法第715条に基づく「使用者責任」が法人に及ぶリスクがあります。
通勤は業務そのものではありませんが、法人が自転車通勤を認めていれば「管理責任は法人にもある」と被害者やその家族から追及される恐れがあります。
たとえば、「全速力の通勤自転車と接触してケガをしたが、通勤者が自転車保険未加入なので賠償が難しい。→「通勤」がなければ事故自体が発生しなかった→法人にも賠償請求しよう。」といったケースが想定されます。
「民法第715条」を開く
民法第715条:ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
「保険証券の写し」を回収するべき理由
1. 書面で加入状況を確認できる
書面(または画像)を確認することで、自転車保険に本当に加入しているかを明らかにできます。口頭だけでなく、必ず書面を確認しましょう。
「自転車保険に入ってます」と入社時に聞いていても、事故発生時に「実は入っていなかった」とトラブルが起こるリスクもあるので、書面で確認することが大事です。
2. 管理していた証拠を残す
保険証券の写しをきちんと回収し、保管しておくことで、「会社としてきちんと監督していた」という証拠を得ることができます。
万が一事故が起こった場合にも、会社が「相当の注意・監督を行っていた」と主張しやすくなります。
法人として常にするべきこと
定期的な証券提出の義務づけ。
定期的(年1回など)に必ず保険証券のコピーを提出させるルールを設定。
管理部門が定期的にチェックを行い、不備者や未提出者には文書やメールなどで催促。
保険加入の補助制度(場合によって検討)
会社として自転車保険加入の補助や団体割引の利用を検討する法人もあります。
従業員の負担を軽減することで、加入率を上げられるメリットがあります。
こうしたルールを設けることで、従業員本人にもリスク管理の意識が根づきやすくなります。また法人としても「相当の注意・監督をしていた」という立場を主張しやすくなります。
労災保険では賠償をカバーできない

労災保険は、従業員本人の治療費や休業補償を主な対象としており、第三者(被害者)への賠償責任はカバーしていません。そのため従業員が通勤中に自転車事故に遭い、損害賠償が発生した場合でも労災保険からの事故相手への補償はありません。
「通勤中の事故だから労災保険で対応できる」と考えていると、実際に事故が発生した場合に従業員や法人が多額の賠償金を負担するリスクがあります。自転車保険などの賠償責任保険の加入が重要です。
自転車通勤は許可制にするべき

自転車通勤は許可制にするべきです。「自転車保険(またはそれに準ずる特約)に加入していること」を許可の条件に設定しましょう。
就業規則・社内規定への明文化
「自転車通勤の許可は、自転車保険(またはそれに準ずる特約)に加入していることを条件とする」と就業規則・社内規定に明記します。違反が発覚した場合のペナルティや指導方法も簡潔に定めておきましょう。
パート・アルバイトの加入も重要
正社員だけでなく、パート・アルバイトを含む「自転車通勤する全従業員」に対しても加入を徹底しましょう。雇用形態にかかわらず、「業務の指揮・命令を受けている」立場である以上、会社が使用者責任を問われる可能性は変わりません。
週1日勤務の方であっても、自転車で通勤しているなら自転車保険に加入しているか確認するべきです。会社規定で「自転車通勤者はすべて保険加入必須」と明確化することで、従業員間の不公平感も防止できます。
自転車保険を嫌がる方は多い
「なんで自転車程度で保険料を払わないといけないんだ?」という感情から、加入を先延ばしにする方はいます。
しかし、自転車事故に数千万円単位の賠償金が認められた事例は存在しますし、従業員が保険に未加入であった場合、最終的に法人が負担を強いられるリスクが高まります。
また、自転車保険への加入を義務化する自治体が年々増えています。もし条例を確認して加入義務化されていましたら、それを根拠に自転車保険への加入を促しましょう。
訴訟対応には多くのコスト(人、時間、費用)を消費しますので、万が一に備えるためにも、法人として自転車保険への加入を呼び掛け続ける意義は大きいです。保険証券を提出しない従業員には継続的な催促を続けるべきです。
まとめ
- 使用者責任のリスクを理解する
・会社が自転車通勤を認める以上、管理責任を問われる可能性がある。 - 高額賠償リスク
・自転車事故で数千万円単位の賠償命令が出る事例が存在する。 - 従業員の保険加入状況を必ずチェック
・保険証券写しの提出を義務化すべき。 - 就業規則や社内ルールの整備
・自転車通勤許可の条件として「自転車保険加入」を義務化する。 - パート・アルバイト・派遣社員も含めて徹底
・雇用形態を問わず、全員が同じルールで管理されるようにする。
このような対策を講じることで、従業員・法人ともに「万が一のリスク」から守られるだけでなく、被害者や社会に対しても誠実な姿勢を示すことができます。
自転車事故による高額賠償例は決して他人事ではありません。事故はいつ起きるか分かりません。
従業員が自転車通勤をするのであれば、保険加入の義務化・証券写しの回収など、しっかりした管理体制を整えましょう!